前回は、「バイオ系プレプリントサーバを利用してみた(その1)」として、バイオ系プレプリントの最近の状況について説明してみました。

今回、たまたま論文原稿ができましたので、私のボスと相談して利用してみました。ボスは、科学論文では、Cell, Neuron, JCBなど多くの雑誌のエディトリアルボードを歴任するなど、科学研究の論文発表について一言ある人です。また、所属している学科自体が、eLifeなどの進歩的な編集ポリシーをもった雑誌の発展に積極的に関与するなど、こういうものに敏感なのです。しかし、ラボとしては、bioRxivの利用は初めてということになります。

さて、今回の論文は、副業みたいなもので、私のメインプロジェクトではないのですが、総合科学誌Proc Natl Acad Sci USA(PNAS)に投稿することにしました。ボスが全米アカデミーの会員なので、いわゆるContributedというカテゴリーの論文にすることができるということもありました。PNASのアカデミー会員によるContributed論文は、きちんと査読はやっていますが、査読者を投稿者である会員が指定できるということがあります。従って、査読者が迅速に決まり、建設的な査読が期待できるというメリットがあると思います(多くのジャーナルは、適切な査読者を探して決めるのに、非常に時間をかけている、という実情がある)。ちなみに、今回の論文は査読も終わり無事アクセプトされています。
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準備
最初に、正式に投稿を考えている査読雑誌が、プレプリントをどう考えているのか、ということを知る必要があります。最近のプレプリント運動で、Cellなどを含め、ほとんどのバイオ系の雑誌でプレプリントにポストすることを認めるようになってきていますが、雑誌それぞれについて、どうなっているのか、確認することが必須です。このWikipediaのページに一覧表がありますが、その後、変更になっているかもしれませんし、間違いもあるかもしれないので、雑誌の公式サイトでしっかりと確認するべきでしょう。
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_academic_journals_by_preprint_policy

プレプリントサーバへの投稿は、雑誌への正式な投稿と同時というケースが多いと思います。eLife, PloS系の雑誌、JCB, Development, PNASなどの場合は、雑誌投稿とプレプリントサーバへの投稿が連動していて、雑誌に投稿した時に、そのままプレプリントサーバーにポストされるというシステムを持つものがあります。この場合は、投稿時に、どこかのステップで選択する項目があるはずです。

そうではない場合、あるいは雑誌投稿システムとは独立してプレプリントサーバーに出したい場合、まず、bioRxiv用にPdfファイルを1つ作るということをする必要があるということです。もちろん、ジャーナルに投稿したもの、これから投稿するPdfを、そのままアップロードしても構いません。ただ、bioRxivにポストされた原稿をよく見ていくと、次の3つのタイプの原稿があるようです。

1)投稿と全く同じpdfの場合。これは、雑誌とサーバーが連携している場合はこうなるでしょう。また、雑誌の連携投稿システムを利用しなくても、全く同じものを投稿することもあると思います。

2)投稿とほとんど同じであるが、少しだけ内容を変えている場合(表紙、文献、図のフォーマットなど)。投稿原稿の場合は、行間にスペースを入れるダブルスペース形式が通常ですが、そのスペースだけを除去してシングルスペースにしたものもあると思います。意図的なのか、ミスなのか、部分的にデータを掲載していない場合もあるようです。

3)内容的には投稿と同じだが、フォーマットを最終的な印刷論文(2コラム形式)のように、更に読みやすくしている場合。


どうするのかは、本当に好みの問題であると思います。ただ、3にするためには、例えば図の配置など、少し手間がかかるので、面倒であることは確かです。また、どこに投稿しているのか、あからさまに見せたくないという場合は、2を利用することで工夫が可能であると思います。例えば、文献引用の体裁は、それぞれのジャーナルで違っていますので、それをわからないようにしておくというのは、やりたくなる人もいるのではないでしょうか。

私たちの場合は、2)にしました。表紙の部分だけbioRxiv用に作り変えました。投稿用のものの一部を削除して、pdfを作り直しただけなので、時間は要しません。

図を含む論文の場合、ファイルのサイズをどれくらいにするのか、というのも大切です。例えば、100MBを超えるようなものになると現状では扱いにくい。逆に、あまりに小さくすると、図の質が低くなってしまいます。おそらく写真や図を含むものですと、10-20MBくらいまでの1つのpdfが標準で、写真をほとんど含まないものですと数MBになると思います。bioRxivを使った経験のある方はわかると思いますが、pdfをウェブブラウザで閲覧はできても、pdfそのものをダウンロードすることは原則としてできないようになっています。

また、bioRxivはサプリメント書類なども添付できるのですが、これを利用しているプレプリント論文は現実にはあまりないように感じます。付属の図表などがある場合は、本文を含めたpdfファイルに一緒に入れておくのが簡単であると思います。ビデオなど特殊なファイルも、あまり利用されていないようですが、それも添付することは可能ではあると思います。

投稿
bioRxivを利用するためには、まずbioRxivでアカウントを作製する必要があります。これは、アカウントを作れば、自動的に返信があって、即投稿できます。また、投稿にあたっては、ORCIDの番号を予め取得しておくというのは研究者の常識としてやっておいた方がよいでしょう。

次に、原稿をアップロードします。これも、いくつかの選択項目がありますが簡単です。ただ、分野別の選択が一つしかできないようで、学際的な内容を含む論文ですと、選択に悩むかもしれません。そして、投稿のボタンを押して待つだけです。
biorxiv

公開
ボタンを押して翌朝、載せますというメールが来て、それで公開されていました。bioRxivの方では、この半日ほどの間に、剽窃や懸念される内容が含まれていないかチェックしていて、問題なければそのままポストしています。この内容チェックの判断は恣意的ですが、普通のバイオ系論文でしたらまず問題はないでしょう。それから半日ほどで、TwitterのbioRxivでも紹介されていました。公にでてしまったので、私のTweetでも紹介しました。その日には、購読しているbioRxivの電子メールAlertにも掲載されていました。つまり、翌日には完全にオープンになります。

ここで指摘しておきたいのは、アップロードしたからといって、直後に公開されるのではなくて、公開までに半日から1日要するということです(週末でしたらもっと時間がかかるのでしょうか)。つまり、bioRxivで公開されるのは、半日後になるので、査読雑誌に投稿するのと、bioRxivに投稿するのを、どちらを先にやるか、とか気にする必要はないでしょう。ただ、一般論としては、査読雑誌に投稿した後に、プレプリントをアップロードするというのが、普通なのかもしれません。

また、プレプリント情報を集めている外部サイトにも数日後にはでていました。バイオ系の場合、このPrePubMedというサイトが、そのようなサイトです。ただ、このサイト、httpsではなくて、httpになっているので、企業などの研究者の方の利用は注意した方がよさそうです。
http://www.prepubmed.org

公開後、査読後の扱い
ここで大切なのは、公開されれば、URLとしてアクセスできるようになるdoi (デジタルオブジェクト識別子)が付与されるということです。つまり、引用も可能になります。プレプリント論文が引用可能なのか、というのは雑誌によりますし、人によって議論もあるでしょうが、現実にプレプリントのdoiを引用している査読雑誌やニュース記事などを見かけます。たまたま、Nature Reviews Geneticsが、総説でプレプリントを引用するのをどう考えるのか、という意見を募集していました。まだ、議論のあるところだと思います。
https://twitter.com/NatureRevGenet/status/951786493026201600

査読が終わると、追加実験をしたり、文章を明確にするために、原稿を変更するのは常です。初稿と違うものになります。この改訂原稿をプレプリントとして、古いものと入れ替えるのか、これも投稿者の好みや都合によると思います。ほとんど変更がなければ、交換はしない。あるいは大幅に変更があったりした場合は、新しい原稿に交換するということになると思います。doiは、同じものを使って、改訂稿も管理されることになります。ただ、プレプリントはプレプリントですので、正式な査読雑誌に掲載されたpdfをそのままポストしたりすることはできません。古い原稿がそのまま残るということになります。

以上、実際に利用してみた経験から、気づいたことを書いてみました。もし、現在、投稿中の論文があったら、bioRxivにポストしてみたらどうでしょうか?
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