今、ゲノム編集技術が大流行していると思います。私も、これを使っています。実は、もう2年以上前にハーバード大学のコアファシリティと一緒に技術を確立しました。ボストンでも、おそらくMITのグループに続く速さだったと思います。最初に、成功した後、ハーバード幹細胞研究所やMGHのグループからもたびたび相談を受けてきました。おそらく、世界的にもこの方法を確立したのは早かったと思います。ところが、この技術があまりに一般的になって陳腐化してしまったので、論文を書くこともできなくなり、結果を捨てるということになってしまいました。そこで、折角ですので、その方法を公開してみたいと思います。
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この写真は、チロシナーゼ遺伝子を標的とするTALENを使って、チロシナーゼ遺伝子を壊すことで、黒いマウスを白くした結果です。これはあまり効率がよくなく、20-30%くらいの成功率。その後、CRISPRで同様なことをやると、90%以上の成功率。生まれてきたマウスが全部白くなってしまったので、何か実験上の誤りがあったのではないか、と思いましたが、DNA配列を解析すると、確かにIndelが起こっているのです。すごい効率です。このように、Indel変異を起こすのは、驚くほど非常に簡単にできます。これが、ゲノム編集技術が生物学研究上の画期的な技術になってきているという所以でしょう。なお、一部、モザイクになっているのは、Indelが発生の途中で起こったために、こういうマウスができるのだと思われます。

この方法のこつは、注入するRNA(DNAも同時に注入する場合はDNA)を如何にきれいにするか、というところだと思います。市販のRNA精製キット(例:MEGAclear Kit)で溶出後、酢酸アンモニウム存在下でエタノール沈殿して、その後、70%エタノールで何度もリンスし、完全に乾燥させた後、RNaseフリー水でサスペンドする。つまり、RNAのカウンターイオンはNH4イオンにします。CAS9のmRNAは自分でも作製できますが、結構サイズが大きいためやや難しいです。市販のものを購入した方が容易でしょう(例:https://www.systembio.com/crispr-cas9-systems)。sgRNAとCAS9のmRNAを混ぜて、胚に注入しますが、これらは細胞質に注入すればよいので、小さな雄性前核にDNAを注入するトランスジェニックマウスの作製法より、技術的にはずっと容易です。

マウスでも簡単にできてしまうので、他の生物でも同様に簡単に「遊ぶ」ようにできてしまうのではないでしょうか?つまり、この「遊ぶ」ようにできてしまうというところが、倫理的に怖いところであると思うのです。ヒトES細胞なども倫理的な問題というのが議論されるわけですが、ES細胞というようなものより、技術的なハードルが低いということです。こういう感覚というのは、実際に使ってみるとよくわかると思います。

CRISPRの方法は、ゲノム編集を簡単にできるようにしたという意味で画期的であると思います。ゲノム編集の技術的な概念というのは、TALENとか、その前のZFNの時代からありましたし、実際にそういう方法が割合と使われていたわけです。確かに、Feng ZhangさんとGeorge Churchさんのグループから2013年初頭に報告された論文はインパクトがありました。でも、TALENの時代からゲノム編集をやっていた私などは、やはりCRISPRのメカニズムを研究したJennifer DoundaさんとEmmanuelle Charpentierさんの研究(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22745249)を高く評価してみたいと感じるのです。こういうのは、結局、基礎科学研究でどういう部分を評価するか、ということだと思います。

ちなみに、CRISPRというものの存在を初めて報告したのは、1987年、阪大の中田篤男さん(現在は、大阪大学名誉教授)と石野良純さん(九州大学農学部教授)の論文(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3316184)。でも、機能不明だったので深い意味はないのですが、一見、金儲けとは程遠い、こういう地味な発見というのも大切だと思います。