米国のオバマ大統領が提唱した巨大脳科学プロジェクトであるBRAINイニシアティブについては、2014年1月から3月まで、日経バイオテクに「脳科学の未来」と題する拙文を連載(6回)し、その一端を紹介しました。

脳科学の未来 https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131224/173054/
「2013年4月2日、ホワイトハウス。オバマ米大統領が、BRAIN initiativeを発表した(詳しくはこちら)。ケネディー大統領の人類月面着陸計画、バイオ医学系初の巨大プロジェクトとなったヒトゲノム計画。これらにも匹敵する脳、神経科学の巨大科学プロジェクトに取り組むという宣言である。BRAINは、Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies の略であり、英単語「Brain」ではない。最先端の革新的な技術による脳研究がBRAIN initiativeだ。そのゴールは、脳の構造、とりわけ脳を構成するニューロンが作る神経回路や脳が働く時の活動の様子を、マクロからミクロまで完全 に明らかにしてしまおう、つまり「脳マップ」の完成である。」

日経バイオテクの連載の文章は、下記のページからリンクされていますが、今後、時期を見て、アップデートした内容を、このブログサイトで、公開していくつもりです。ご期待ください。(また、関連内容を、掲載させていただくような科学関連雑誌等への投稿も可能ですので、個人的にご連絡ください。)
http://masahitoyamagata.blog.jp/archives/1970798.html

さて、今回は、米国のBRAINイニシアティブに対応するヨーロッパ共同体(EU)の大型脳科学プロジェクトであるHuman Brain Project(HBP)についての話題です。

Human Brain Projectのウェブサイト https://www.humanbrainproject.eu/

ヒューマン・ブレイン・プロジェクト(Human Brain Project, HBP)は、Ecole polytechnique federale de Lausanne(ローザンヌ連邦工科大学)の主導で、欧州連合(EU)の資金をもとに、2013年に設立された米国のBRAINイニシアティブに対応するヨーロッパの巨大脳科学プロジェクト(10年間を予定)です。このプロジェクトでは、ヒトの脳がいかに働くかを理解するために、スーパーコンピュータを用いて、最終的にヒトの脳をシミュレートすることを目標としています。プロジェクトでは精神神経疾患の薬物治療のシミュレートを行うため、機能している脳の完全なコンピュータモデルの構築を目指しています。HBPの本部は、スイスのジュネーブにあり、Henry Markram教授(1962年生まれ)がその代表者になっています。

Henry Markram氏のTEDトークのサイト
 http://www.ted.com/speakers/henry_markram

ところが、2014年7月7日に、154名の欧州の研究者(現在は約600の署名)が、このプロジェクトについて、あまりに狭い研究アプローチを取っているため、目標達成ができず、失敗するという大きなリスクがあるのではないか、場合によっては、ボイコットすることになるというオープンレターを提出しました。これについては、英国のガーディアン紙、BBCといった一般メディア、更にNature、Scienceなどでも大きく報道され、私のTwitterでも、たびたび、報道などを、ツイートしてきています(私のTwitter https://twitter.com/yamagatm3)。

この騒ぎのきっかけは、Henry Markram氏が、2014年春のプロジェクト編成において、このオープンレターの中心的人物であるZach Mainen氏(ポルトガル)らのような、思考や行動のような高レベル脳機能を研究する認知科学者をプロジェクトから外したことがあります。 また、計算論的神経科学者であるPeter Dayan氏(University College, London)は、大規模シミュレーションの目的は根本的には時期尚早であると主張しています。既に、HBPから、オープンレターで指摘された内容を検討するとの反応も出されており、何らかの見直しにより、Win-Winのプロジェクトになるのではないか、と推測されます。

Human Brain Projectを懸念するオープンレターのサイト。

取り上げた報道についての多数のリンクがあります。
http://www.neurofuture.eu/

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参考までに、以下に、Human Brain Projectについて簡単に説明しておきます。
なお、以下の記述は、HBPについて記載した英語版Wikipediaのサイトを参考にしました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Human_Brain_Project

HBPや他の関連プロジェクトで得られた技術は、他の研究分野にいくつかの可能性を提供することになる。 プロジェクトは、ヒトの脳とその機能について理解を深め、治癒および脳の発達に関する医学的研究を助けることになる。 例えば、脳モデルは、疾患の特徴や医薬の影響を調べるのに使用することができ、診断および治療方法が生み出されるだろう。 そして、これらの開発により、低コストで高度な医療が提供できることが期待される。 人工的なヒト脳のデザインは、高度なコンピュータチップの開発につながる。例えば、ヒトの脳をモデルとすることで、新しいスーパーコンピューティングおよびエネルギー効率技術の開発が可能になる。 プロジェクトの基盤には、ニューロロボティクス、ニューロモルフィック・コンピューティング、ハイパフォーマンス・コンピューティングも含まれている。こうしたコンピューティングの開発は、データマイニング、通信、家電製品、および他の産業用途などにも影響を及ぼすことが期待される。

戦略目標:これらの6つの分野での情報コミュニケーション技術基盤の開発を行う。
ニューロインフォマティクス
脳のシミュレーション
ハイパフォーマンス・コンピューティング
医療情報学
ニューロモルフィック・コンピューティング
ニューロロボティックス

組織と資金調達
HBPを主導するのは、ローザンヌ連邦工科大学、ハイデルベルク大学、 ローザンヌ大学とその付属病院である。プロジェクトはヨーロッパ26カ国にある135のパートナー機関の研究者の数百人が関わる。その予算は、11億9千万ユーロであり、ECのFuture and Emerging Technologies (FET)というグラントにより援助される。最初の資金調達のためのグラント応募は、2013年11月に締め切られ、結果が2014年3月に発表された。32団体から22のプロジェクトが選ばれている。

サブプロジェクト:HBPは13のサブプロジェクトからなる。
SP1 -戦略的マウス脳データ
SP2 -戦略的ヒト脳データ
SP3 -認知アーキテクチャ
SP4 -脳研究の数学と理論基礎
SP5 -ニューロインフォマティクス
SP6 -脳のシミュレーション
SP7 -ハイパフォーマンス・コンピューティング
SP8 -医療情報
SP9 -ニューロコンピューティング
SP10 - ニューロロボティクス
SP11 -アプリケーション
SP12 -倫理と社会
SP13 -マネージメント
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